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胃カメラ検査備忘録

胃カメラ、飲みたくないです。

カメラ業者さん、もっと細い細いカメラを作って下さい。


2005年の夏、どうも胃の具合が悪くなった。夜寝る頃になると、胃酸が多いのか、軽い吐き気がする。以前と比べて食欲も芳しくない。そのため、近くの診療所を受診した。まあ医師も不定愁訴のままでは困るようで、結果、内視鏡検査を受けること、つまり人生で初めて胃カメラを飲むことになってしまった。

20代前半の人間の大多数が胃カメラなんて飲んだことがないんだから、私も今まで飲んだことがない。だから胃カメラは丸っきり未知のものだった。未知のものは同時に恐怖でもある。きゃあ怖い。

ネットで見た体験談は、主に苦しいだの辛いだのもう二度と受けたくないだの書かれているものだった。ああやっぱり怖い。たまに、ちっとも苦しくなかった、楽だった、という話も見たが、彼ら曰く抗不安剤を注射されたのが運良く意識が遠のくレベルにまで効いたのだろうという。当時私は普段から抗不安薬を服用していたから、弱い耐性でも出来ているのかも知れない、そうころりと意識が飛ぶようなことはないだろう、だから苦しいことは覚悟しなければならない、と思った。

おまけに私は嘔吐反射が割合強い方で、吐くのが怖い人間だったから、喉元をあの太いカメラの線が通ると考えただけで不安でたまらなかった。あのカメラを口から入れることがなくなっただけで隨分と楽な検査になるんじゃないのだろうか。うどんを飲み込むように飲むといい、とも書かれていたが、うどんはせいぜい長さが10cm程度で、食道へ流れきってしまうのに対し、胃カメラはそうはいかないじゃないか。ただ先人の知恵は学ぶものであるから、私はうどんをイメージすることにした。

検査当日。絶食。水は飲んでも良いそう。腹減った、と思いながら朝一番に診療所へ。

受付を済ますと、変な手術室のような場所へ案内された。薄い緑色のタイルが敷き詰められた部屋。まるで安いアパートの風呂場を広くしたみたいだ。そこで私と同年代と思われる男の看護師さんと話をする。緊張を解そうとしてくれているのだろう。

それでそろそろ時間だということで、カルピスのような白い液体を飲まされる。これが胃液の泡を取り除くものらしい。妙にとろとろしている。飲み終えると、今度は薄いウーロンハイのような色の液体を渡された。喉の麻酔液だという。独特の苦さがあった。男の看護師さんは「五分ほど喉に溜めておいて下さいね」と言って何処かへ消えてしまった。"五分ほど喉に溜める"。実際やってみると難しく感じた。最初のうちはまだいい。問題は麻酔液自身が効いてくる頃だ。喉が緩くなり、麻酔液が喉の奥へ漏れてしまうのだ。飲んでもいいものか知らなかったけれど、若干は飲まざるを得ない。苦い、苦い……。

まだ五分過ぎないの、早く過ぎて、何度そう思ったことだろうか、やっと五分が過ぎて看護師さんが戻ってきた。麻酔液をバケツに吐き出すと、次は注射。ネットでも書かれていたとおり、セルシンだろう。これで意識がぼんやりしてくれればいいなあ、と思いつつ注射を受ける。あとは医者を待つだけ。

待っている間、気持ち分だけぼんやりとしてきた。ああ良かった、これで少しは苦痛も和らぐかも知れない。そう思っていたのに、なかなか医師が来ない。お医者さんどうしたの。もう注射を終えて十五分は過ぎていた。多分患者さんを診ているのが長引いているんだろう。それはいいんですが、私もうすぐぼんやりが解けてしまいそうです。早く、お願い、早く来て。

そこへ医師が登場。待たせたな、などという格好いい言葉も特になく、機器を確かめた後にベッドに横にさせられ、部屋を暗くし、私の口にマウスピースの様なものを咥えさせる。そして芋虫の如く口へ近付く胃カメラ。ああ、いよいよ胃カメラを飲むんだ。うどん、うどん、うどん!

飲み込むことはすっきり行った。「上手いですねえ」と男の看護師さんが言う。これがうどん効果か。ところがいや、これはやっぱり胃カメラであって、うどんじゃない。管は喉元に残ったままだ。そしてするすると胃の中へと進んでいく。あぐあぐ、なんか苦しい。苦しい、苦しい……、おえっ!何年ぶりかの嘔吐の感覚が突然込み上げてきた。

ところが、吐かずに済んでいる。どうやら嘔吐時に口を通じて吐かれるべき胃の内容物・胃酸が、胃カメラに付いた管を通じて吸入されているようだった。ただ吸入されたからといって、苦痛が除かれるものではない。確かに一時的には楽になるのだが、再び押し寄せる嘔吐の感覚。苦しい、おえっ!そして吸入され、楽になる、しかし再び嘔吐の感覚、苦しい、おえっ!そして吸入……。繰り返しが、検査中何度も訪れた。医師は「胃酸が多いなあ」と言っていた。そうか胃酸が多いのか、おえっ!

その間、私は足を軽くじたばたさせていた記憶がある。それほど苦しく感じたのだ。検査する側にとっても、やり辛かったに違いない。救われたのが、そばに人が付いていて、検査中背中をさすってくれたり手を握ってくれたりしたことだった。あの男の看護師さんだ。お陰で、体は苦しくとも心理的にはとても楽になった。ありがとう、看護師さん。

検査の間中、画面に映された自分の胃の中を見ることができたのだけれども、もう苦しさをこらえるのに精一杯でそんな余裕はなかった。検査前はじっくり観察してみようと思っていたんだけれど、それどころじゃなくなっている。おえっ!

検査も終わりに近付き、管がやっと口から離れた時は地獄から解放されたかのようだった。検査が終わると、医師はさっさと去っていった。暗い部屋に残された私と看護師。まるで密室で乱暴された後みたいだ……。

その後は診察室の隣で二時間ほど寝かせられた。抗不安薬を注射しているというので、動いてふらつくことがあると危険だからというらしい。それにしても、喉が痛かった。風邪を引いたときの様な喉の痛さ。管がするする当たって、少し炎症を起こしていたのかも知れない。

昼前に結果を聞くために診察室へ。医師によると、「綺麗な胃」で「特に炎症はない」という。そりゃ良かった。ストレスを強く感じているのだろうということで数種類の薬を処方され、帰された。

検査自体は非常に苦しかったけれど、良い体験だった。いや良い体験とは言うけれど、こんな体験しない方がいいんだろうな。やっぱり健康が一番だ。

Last modified:2008/11/11 21:04:24

bau

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